2009年5月13日水曜日

ドリアン・グレイの画像。

著者:オスカー・ワイルド(1854〜1900)
アイルランド出身の作家・劇作家。著作に「サロメ」他。


希代の美青年ドリアン・グレイ。純粋無垢な青年だったドリアンは、とあるきっかけで出会った画家に乞われ、一枚の肖像画を残した。その肖像画にはドリアンの美貌がそっくり写し取られていた。しかしドリアンが大人になるにつれて、自身の美貌に溺れて悪の快楽と欲の誘惑に浸るようになり、その度に肖像画の方の表情だけが残忍 さを増して行く、というストーリー。ドリアンの肖像が醜悪になっていく反面、ドリアン自身の肉体の若さと美貌と純粋さは保たれるため、彼の悪事はエスカ レートしてついに……。


まずなんと言ってもこの着想の面白さ、です。この見事な舞台装置に、誰もが思春期に通過してきたであろう自我の目覚めと悪への堕落が、エスプリに富んだ語り口と克明な描写力で描き出されます。

そして、もうひとつのテーマとしてワイルドが本書で繰り返し語るのは、現実社会や道徳を超えて存在する究極の「美」や「芸術」の価値。

「悪徳も美徳も、芸術家にとって芸術の素材料に過ぎない」

言っちゃったよ!
美なるものに見入られた人間の、現実社会への宣戦布告とも取れる不遜な発言です。しかし、美を賞賛する一方で、人間の堕落や道徳観もしっかり描くバランス感覚。

そもそも、道徳と美は、互いに対角線上にも延長線上にもない価値観だと思うのだが、道徳と対比させることで美なるものが存在感を増して行くという描き方はありだなあと思いました。そして、それこそがストーリーテリングの面白さなのかもしれません。

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